訴訟という手段は、なんでも白黒ハッキリさせるための熾烈なバトルという他にも、司法という公の場に話し合いを持ち込んで、中立の立場の裁判官が合法的であることを確認し、双方が納得できる和解案にたどり着くことを最初から目的としたものもある。そんなわけで、毎日全国津々浦々の法廷で裁判が行われている訴訟大国のアメリカだが、全米が注目するような事件では、その裁判官までもが有名人になったりすることもある。元アメフト選手で俳優のO・TJ・シンプソンが、元妻とその友人を殺したとされる事件では、裁判の様子が連日報道され、日系人のイトウ判事といえば、お茶の間でも名の知られる「時の人」となった。最近でも、利回りの良い投資ファンドと思われていたものが、実はポンジ詐欺(ネズミ講)で、500億ドルものお金が露と消えたバーナードーマドフ事件が発覚した。ウォール街のホワイトカラー犯罪には甘い判決が下るものと思われていた大方の予想を裏切り、求刑通り最長の懲役150年を言い渡した連邦地方裁判所のデニー・チン判事もそんなセレブ裁判官となった一人だ。このチン判事が次に担当したのが、ほかでもない、グーグルプリントの和解案というわけだ。この裁判を、グーグルが勝手に立ち上げたプロジェクトのことを知らされて慌てふためいた出版社や著者が訴訟を起こしたもの、と思うのは大間違いである。グーグルは2004年10月、フランクフルトブックフェアの場で「グークルプリント」と名づけられたこのプロジェクトを発表しており、当初からペンギンハホートン・ミフリン、マグローヒル、ハイペリオンといった大手出版社が参加している。特に秘密裏に進められてきたものではなかったのだ。それどころか、その前からグーグルが何をしようとしているのかは、出版業界で周知の事実だったといっていい。グーグルも、積極的に出版社にコンタクトを取り、ブラウザの中で、本の中身をすべて見せて課金する方法がいいのか、あるいは一部だけにとどめて紙の本が手に入るリンクへ誘導してほしいのか、お伺いを立ててもいた。